ROICとは「企業が、使ったコストの何倍儲けたか」という数値。当然「多いほどいい」です。
『ROIC』と『ROE』はよく似ていて、違いは下の通りです。
- ROE…『株主が投資しているお金』を何倍にしたか、を見る
- ROIC…『使ったコスト』を何倍にしたか、を見る
「使ったコスト」は、ビジネス用語では『投下資本』といいます。「投下資本の何倍の利益を出したか」ということで、ROICは日本語で『投下資本利益率』といいます。
(大体『15%以上』ある銘柄が、優良株と言われます)
ROICの出し方
まず「思い切り簡単」に書くと、下の通りです。
- 『利益÷使ったお金』
で「使ったお金」とは何か。普通の感覚だと、こうでしょう。↓
- 払ったお金…使ったお金(コスト)
- 金庫の中のお金…使ってないお金(資産)
しかし、企業の場合は違います。『金庫の中のお金』も全部、『使ったお金』になるのです。
なぜか?
理由は簡単で『企業は、いつ投資するかわからない』からです。
たとえば、あなたが社長だとします。そして、事業のお金を1億円調達しました。
このお金は「全額、設備に投資する」ものです。「金庫に貯めこむつもり」は、まったくありません。
しかし、では「1日も、金庫に入れない」でしょうか。違いますよね。「設備投資」のような大きな買い物は、すぐにはできません。契約だけで、何ヶ月もかかります。
つまり、見た目は「金庫に眠っている」ように見えても、これは「事業に使うお金」なのです。そして、企業のお金は「全部それ=事業に使うお金」と言えるんですね。
理由は「いつチャンスが来て、一気に全額投資するかわからない」からです。だから、企業の「使ったお金」とは「今あるお金、全部」のことなのです。
(違和感がある人もいるでしょう。実はこの「使ったお金」の定義は、専門家でも人それぞれです。そのため、違和感を一度置いて、続きを読んでください)
これだと『ROE』と同じでは?
もう一度、『ROE』と『ROIC』を比べてください。
- ROE…『株主が投資しているお金』を何倍にしたか、を見る
- ROIC…『使ったお金』を何倍にしたか、を見る
ROEは『株主が投資しているお金』と書いてあります。つまり、『今自由に使えるお金』ですね。そして、ROICの『使ったお金』も、『今自由に使えるお金』のことでしたね。ということは、両者は同じになってしまいます。
では、ROICは何が違うのか。それは「借金も追加する」ということです。
借金も「使ったお金」である
これはわかるでしょう。もし借金をしていたら、「借金=使ったお金」として、計算するはずです。「借金を貯金している人」はいないですからね。
で、企業のほとんどは借金をします。つまり『今あるお金(株主から集めたお金など)+借金』を使って、彼らは事業を回しているのです。
だったら、「お金を何倍にしたか」を見るためには、『今あるお金+借金』を、何倍にしたか?を見るのが大事です。そうでないと、企業の実力を勘違いします。たとえば下のような例です。
実力を勘違いする例
- 元のお金は『1億』
- そして『99億』借金した
- これで、『50億』利益を出した
で、『ROE』の場合は「借金をカウントしない」ので、下のような見方になります。
- 『1億』で『50億』の利益を出した!『50倍』だ!
一方、『ROIC』は「借金をカウントする」ので、下のようになります。
- 『100億』で『50億』の利益…。2分の1じゃん…。
「借金を計算するかしないか」で、企業の評価がまったく変わることがわかるでしょう。このように「借金も含めて、コストを計算」した方が、「その企業の実力がわかる」のです。
あらためて『ROE』と比較
ここで一度、あらためて『ROE』と比較しましょう。
- ROE…利益÷資産
- ROIC…利益÷(資産+借金)
となります。ROICの方が「割る数」が大きくなるわけですね。さっきの「勘違いの例」だと、こうなります。↓
- ROE…『50億』÷『1億』=50
- ROIC…『50億』÷『1億+99億』=0.5
となるわけです。この数字を日本語に直すと、
- ROEで見る…資本の『50倍』の利益を出した
- ROICで見る…資本の『0.5倍』の利益を出した
…となります。「天と地の差」だとわかるでしょう。
まとめ…『ROIC』は正確だが、難しい
以上、『ROIC』と『ROE』の違いをまとめると、
- ROIC…正確だが、難しい
- ROE…大雑把で、簡単
となります。「ROICで株を買った方が成功する」と思うでしょう。基本的には、その通りです。
「ROICで投資するのが難しい」理由
ROICで投資するのは、下の理由で難しくなっています。
- 計算用のデータを持ってくるのが難しい
- しかも、計算が人によって変わる
ということです。詳しく書くと、
- 入手が難しい…金融庁の「有価証券報告書」を見ないといけない
- 計算が人による…「使ったお金」の定義が、人それぞれのため
…ということです。「使ったお金」については、「金庫のお金も全部カウントする」という点で、違和感を持った人もいるでしょう。そういう疑問は「実は、専門家の間でもある」のです。それで、意見が割れるんですね。
ということで、
- ROIC自体は、誰でも出せる
- しかし、「正確なROIC」は、なかなか出せない
となるのです。逆に言えば、これができれば「一気に有利になる」わけですね。
以上、ROIC(投下資本利益率)の意味を解説しました。特に『ROE』の方も、合わせて読んでいただくと、株式指標がよくわかるようになるでしょう。
ROICの正確な計算式・用語など
最後に、ROICの正確な計算式や、用語などをまとめます。ここまでの説明は「わかりやすさ重視」だったからです。
(内容は正しいですが「単語が厳密でない」部分があるんですね)
というわけで「正確な単語」を最後にまとめます(かなり複雑なので、読まなくてもOKです)
- ROIC…ROI、投下資本利益率とも言う
- ROIC=NOPLAT÷IC
- NOPLAT=営業利益×(1-税率)
- IC=株主資本+有利子負債
それぞれの単語の意味は、下の通りです。
- NOPLAT…みなし税引後営業利益。NOPATとも言う。
- IC…投下資本
- 有利子負債…利子の返済が必要な借り入れ。要するに「借金」。
- 税率…大体40%
IC(投下資本)の見方は、2通りあります。
- 資産ベース…『固定資産』+『運転資金』
- 負債ベース…『株主資本』+『流動負債の有利子分』+『固定負債の有利子分』+『少数株主持分』
*『運転資金』…売上債権+在庫-支払債権
以上、ROIC(ROI・投下資本利益率)について、厳密な補足をしました。難しい用語も大事ですが、先に説明した「わかりやすい中身」を、まず理解していただけたらと思います。